磯和歯科医院

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口腔内細菌と誤嚥性肺炎

歯科医師 磯和 均

 今回は、口腔内細菌と誤嚥性肺炎についてお話しましょう。
  お口の中の健康管理といえば虫歯の治療とか、入れ歯の製作を思い浮かべられる方も多いと思いますが、要介護者の場合まず必要なことは、口腔内を清潔に保つことです。口腔ケアという視点でまず誤嚥性肺炎を取り上げてみます。

  高齢者のような抵抗力が低下した方において肺炎は致命的な疾患です。その中でも、誤嚥性肺炎と呼ばれる疾患は気道に食物や水分が入り込み発症する肺炎です。つまり口に入ったものをうまく食道に送るという反射が低下して、肺の方に入っていったときにむせたり咳き込んだりすることが正常にできなくなりることで徐々に肺炎を起こしていく病気です。

  近年、細菌同定方法の進歩によりこの肺炎と口腔内常在菌(口の中に普通にいる細菌)の関連が注目されるようになりました。口の中にはたくさんの細菌がいます。1mlの唾液の中には1億個、1gの歯垢の中には1000億個の細菌がいるといわれています。特に、口腔衛生状態のよくない高齢者の場合、歯垢の量は多くなり、カビの仲間であるカンジダ菌も検出されるようになります。このような口の中から唾液や食物残さとともに口腔内の細菌が気管支や肺に入り込む機会が多くなると肺炎を発症しやすくなります。

  実際に要介護者のお口の中を診ましても唾液量の低下や、軟食或いは流動食により健常な成人と比較して明らかに歯垢や、食物残さが目立ちます。

  そこで、要介護者に対する口腔ケアの重要性が評価されるようになってきました。毎日の口腔ケアを適切の行うことでお口の中の細菌数は10分の1から100分の1にすることが出来ます。さらに、口腔ケアを行うことは機能訓練の効果もあります。つまり、唾液腺を刺激して唾液の分泌を促進したり、口の周りの筋肉をマッサージすることになるので誤嚥そのものが少なくなるといわれています。

  その結果、誤嚥性肺炎の発症を半減させることができた、或いは発症した場合についてもその程度が軽減したという報告があります。

  では実際の方法について簡単に説明しましょう。まず、現在の口の中の状態がどうなっているのか把握します。入れ歯は入っているのか、何本歯が残っているのか等です。入れ歯の場合は必ず外してから口の中と入れ歯を清掃します。入れ歯のほうはぬめり感がなくなるまでよく水で流しながら洗います。口の中については、一般的な歯ブラシを行うとともに大き目の綿棒などで舌苔(舌についた白いネバネバ)を落としたり、口の中全体をマッサージするとよいでしょう。また高齢者は食後に薬を飲む機会が多いのですが、口の中に残っていたりしないかこれもよくチェックします。

 以前は介護や看護の現場では口腔ケアについてはあまり積極的に行われていませんでした。しかし最近では看護婦、保健婦、ホームヘルパー等歯科専門以外の職種でもお口の中の重要性が認識されるようになり積極的に行われるようになってきました。もっとも手間のかかる食事介護に更に口腔ケアが増えるわけですから介護現場の方は大変ですが、非常に大切な介護 護の一つであると思います。

  今回の介護保険制度においても訪問歯科衛生管理指導の項目が含まれています。ケアプランの中に積極的に導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

ナイス・ケア通信 2000.5月号掲載



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