歯科医師 磯和 均 |
要介護者にとって、日常生活の中でもっとも大きな楽しみのひとつは「食事」です。一方、介護者にとって「食事」は入浴、排泄とともに時間と労力がかかる三大介護の1つです。 この「食事」が上手に口から食べられるようにすることは要介護者にとって自立への大きな第一歩となります。「口から食べる」という行為を維持・回復することこそが要介護者における口腔ケアの目的です。 一般に口腔ケアは歯が痛い、入れ歯が噛めないということを主訴とした治療行為から始まります。つまり虫歯の治療をしたり、入れ歯の製作を行うことになります。従来はここまでで歯科医の仕事は終わりと考えられがちでした。 しかし、治療行為だけでは「口から食べる」という目標が達成されないことがだんだんわかってきました。口腔清掃が十分に行われなければ虫歯が進行したり、入れ歯にカビが生えて粘膜に炎症が波及したりしてしまいます。肉体的・精神的に大きなストレスを払って治療行為を行っても、適切な管理が行われなければいずれ役に立たなくなります。 そこで、最近は以下のような一連の行為をもって口腔ケアと考えられるようになりました。 |
1. 機能を考えた形態の改善(治療行為) 2. 口腔疾患の予防管理(口腔清掃など) 3. 生活環境や生活習慣改善のための保健指導(食環境整備など) 4. 機能維持や回復を目的とするリハビリテーション (摂食、嚥下機能訓練) |
このうち最も基本で、かつ重要な位置を占めているのは口腔清掃です。 では、口腔清掃の方法を具体的に説明しましょう。 (1)口腔内の状況の把握 歯がどこに何本残っているか。 取り外しの入れ歯を使っているか。 (2)口腔内の清掃 歯が残っている場合は、まず歯ブラシで歯の清掃を行います。うがいが難しい場合、必ずしも歯磨剤をつける必要はありません。歯と歯の間や歯と歯茎の境目には特に食べかすや歯垢がたまりやすいので念入りに磨きます。 次に、舌や粘膜の清掃を行います。高齢者では唾液の分泌量が減少していることが多いため舌苔(舌の上の白いカス)がたまったり、飲み薬が残っていたりします。水に浸したガーゼでぬぐうようにして清掃します。 注意としては、明るくしてよく口の中が見えるようにして行うこと。仰向きに寝かせた状態で清掃するのもいいでしょう。開口状態の保持が難しい場合は、割り箸の先にガーゼを巻きつけたものを噛ませると磨きやすくなります。 (3)入れ歯の清掃 入れ歯の清掃は必ず外して行います。流水下で使い古した歯ブラシまたは義歯用ブラシで清掃します。食べかすやプラークを落とすには食器用洗剤で十分ですが、歯石の沈着や着色が著しい場合は義歯用の洗浄剤に浸けておくのも有効です。清掃時の注意としては落下による破損に注意すること。手を滑らせて入れ歯が落ちても大丈夫なよう洗面器などに水を張って、そのうえで磨くようにしましょう。 慣れてしまえばそう難しいことではありませんが、最初はよく見ながらすることが大切です。 |
ナイス・ケア通信 2001.3月号掲載 |