磯和歯科医院

MENU

"医療の質"を測る

歯科医師 磯和 均

 近年、わが国における歯科医療提供体制の目標は量的な充足から良質な医療の提供にシフトしてきている。"医療の量"を知りたい場合、歯科においていえば人口10万人当たりの歯科医師数や未処置う歯の割合などの指標で比較的簡単に測ることができる。しかし、"医療の質"を測ることは量を測るほど容易なことではない。今回は、"医療の質"を測る枠組みについて紹介してみる。

1.医療の質の評価における3つのアプローチ
  医療の質は、単純に0から100点で評価できるような一元的なものではなく、表に示すような多次元的な評価軸を有している。それらを評価するためDonabedianが提唱した「構造」、「過程」、「結果」の3つのアプローチが用いられる。

@構造(structure)
構造は評価基準が作りやすく、評価も容易なためよく行われている。施設基準、人員配置等に代表される法令などは構造評価の例であるが、ここで評価するのはあくまでも"良質な医療提供に対する期待値"であり、評価方法としては鈍感であるという指摘もある。

A過程(process)
診療・ケア・サービスの内容や構成が現在の医療水準に則っているか、患者の身体的・心理的ニーズに適切な対応がなされているかなどをさし、医療の質をかなり反映するといわれている。しかし、その評価はかなり困難である。

B結果(outcome)
いわゆる治療成績がこれにあたる。評価は最も医療の質を反映するが、治療時の重症度による調整が必要なこと、測定完了まで時間がかかる等の欠点がある。
そのため、医療の中間結果を用いた臨床指標(クリニカルインディケーター)によって、より早く結果を測定しようとする方法が注目されている。

表 医療の質の評価軸
・的確性、現在の医学水準に照らしての正しさ
・潜在的な効能、実際の効果
・対応の迅速性・適時性 ・継続性、包括性、連携
・医療行為ならびに医療環境の安全性
・アクセス・利用のしやすさ
・必要なサービスの利用可能性
・効率性、コスト・パフォーマンス
・公平、公正
・倫理観・価値観・規範・法・制度の遵守
・快適性、利便性、癒しの環境
・患者の視点の尊重――プライバシーの尊重、患者の満足、インフォームドコンセント、患者ニーズへの対応、患者の自己決定と参加

2.医療の質を誰が評価するか

@ 自己評価

 医療現場で古くから行われてきた方法である。得られる情報の量や質については優れているが、他との比較に問題がある場合もある。医師の「自律性」によって常に問題点を探し、自己評価を行うことは医療の質向上のための基礎である。

A 患者評価

  医療受療者である患者も、重要な評価者である。しかし、現実には満足度は患者の意識と期待度および時期により異なり、流動的であるという欠点を持つ。医療機関は患者が満足するものでなければならないが、従業員の満足や社会満足があって初めて患者がトータルに満足すると考えられている。

B 第三者評価

  より客観的な評価を専門知識を持って行うことを目的として、第三者による評価が行われるようになってきた。医科の病院では日本医療評価機構による病院機能評価が急速に拡大している。歯科における代表的な第三者評価としてはISO9000sがあるが、あまり普及していない。

3.医療の質評価の今後

  良質な歯科医療の提供を掲げて診療を行うに際し、医療の質の評価なくして、"良質な"は訴えられない。そして、その中心はプロフェッションの自律性に立脚した能動的・主体的な自己評価と改善努力である。 一方、社会のIT化とともに歯科に関してもさまざまな医療情報が氾濫するようになったが、医療の質がどれくらい向上したかを示しているものは少ない。国際的に見ても歯科の第三者評価は医科ほどには進んでいないが、質の評価・向上に関する正確で分かりやすい情報を発信する努力が今後さらに強く求められるようになるであろう。

参考文献
Donabedian, A.: The definition of quality and approaches to its assessment. Health Administration Press 1980
今中雄一:医療の質の評価と改善. 病院, 55(11),(12) 1996

大阪府歯科医師会雑誌掲載



連絡先
磯和歯科医院
〒571-0063
門真市常称寺町27-16
TEL : 072-881-3614